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FUTURE 仕事場を訪ねて

vol.3 土本訓寛・久美子さん

先ごろ、日本陶磁器協会展で奨励賞を受賞したばかりの土本訓寛さんと、パートナーである久美子さん。身近にある自然の中に溶け込むように暮らし、器を作り続けるおふたりにインタビューしました。

■薪窯に魅了されて

平安時代末期から焼き物の産地であった越前。2017年に日本文化遺産となった六古窯のひとつとしても知られています。良質の土にめぐまれたこの地で、薪窯にこだわり、いにしえと今の空気を結びつけるような作品を作り続けているのが、土本訓寛さん、久美子さんご夫婦です。

初めてお会いしたのは、数年前の越前陶器まつりでのこと。数ある出展者の中で群を抜くセンスのよさ、リンゴ箱を再利用したかわいらしいディスプレイにも一目惚れ。

このときに出合ったお醤油差しは、まるかくの大人気商品となりました。手のひらに乗る小さめサイズに、久美子さんの象嵌がふんだんに。造形は訓寛さん。切れの良さ、安定感、そしてテーブルに出すのにちょうどよい大きさです。


土本訓寛さんは福井県高浜町のご出身。木工芸を生業とする家で育ちましたが、ご自身は岡山の備前で出合った薪窯に魅了されて陶芸の道へ。移り住んだ越前で久美子さんと出会い、薪窯で焼き上げることを前提にした器をおふたりで作り続けています。
(撮影:土本久美子さん)

訓寛さんの窯にかける情熱はかなりものもの。例えば今年は、日本陶磁器協会展への出展のために新しい窯を作るというこだわりようです。その初窯で焚いた焼き締めの大壺は、みごと現代陶芸奨励賞を受賞しました。
これは私たちにとってもたいへんうれしいニュースでしたが、一方で、今後は手の届かない作品ばかりになってしまうのでは?という心配も。土本さんにその不安をぶつけてみると、「僕が作るのはあくまで器。器であるためにはどうしたらよいか、常に考え続けていますし、使えるものを作りたいという気持ちは、これからも変わることはありません。器を作ること=存在を作ることだと思っていて、今回の出展作も、いかに“器”であるかを意識して作ったつもりです」というブレのない答えが返ってきました。
実際、土本さんが作る器はとても使い勝手がよく、一目惚れで購入しても後悔しないものばかり。まるかくスタッフ内にもファンが多く、それぞれがお気に入りをみつけて愛用しています。例えばこちらの急須。蓋の持ちやすさ、注ぎやすさとキレのよさ、ほどよい大きさと重さ。茶葉がゆっくりと回り、いつものお茶がぐっとおいしく感じます。


こちらの三島手片口は、一人呑みにぴったりの大きさ。そして、ちょっとした向付にもなる多用の器です。食べ終わると、久美子さんの手による象嵌の蓮が現れ、またまたほっこり。


■形作りは訓寛さん、象嵌は久美子さん

さて、ご夫婦で陶芸家という方は多いのですが、土本夫妻の場合、特徴的なのは1つの作品に2人の手が入るところ。李朝の技術を基礎にしながらも、遊び心たっぷりの文様や形が魅力の三島手シリーズは、ほとんどがおふたりの共同作業。形作りは訓寛さん、象嵌は久美子さん、という具合に分担されています。 別の工程とはいえ、夫婦の共同作業というのはケンカになったりしないのだろうか……などと、よけいなことを考えてしまいますが、「2人で違うことをしよう、と決めています。そもそも、土や釉薬を選ぶことから窯焚きの中心作業まで、すべてのプロデュースは訓寛が担当していて、私はただただ、大好きな象嵌を好きなように描かせてもらっている感じ。そもそも、私が象嵌に向いているというのも彼がみつけたことなんです」(久美子さん)と、パートナーへの信頼は絶大のようです。



小さい頃から絵を描くのが好きで、絵にかかわる仕事を考えていた久美子さんが、「人の手に渡り、使い続けてもらえるものを作りたい」と思うようになったのは、大学在学時代のこと。信楽や九州の窯元を回りながら、もともと好きだった焼き物の魅力にどっぷりとはまっていったといいます。 「土の柔らかさが好き。自分の手が動くままに線が描けるから。よく、彫るのが好きなら木工はどう?と言われるんですが、感覚重視な私に彫刻刀は無理(笑)。懐の深い土なら、私のいい加減さも吸収してくれるんです」。見ているだけで楽しい気分になってくる三島手は、この久美子さんの大らかさから生まれるものなのかもしれません。 とすれば、オールプロデュースの訓寛さん、醤油差しや急須の造形をからしてさぞきちんとした性格かと思いきや、「いや、そうでもないですね(笑)。細かいことはあまり考えていません。意識しているのは、関係性のみです。土があって、火があって。厚みにしても、それに見合う素材があり、薪の質があり、火の強弱がある。そんなものに囲まれながらきっちり体を動かして器を作っていきたい」とおっしゃいます。


焼き締めたあとにさらに土を重ねた、訓寛さんの新作。ほどよい縮れがなんともいえない風合いを生み出しています。幸福な一服。

■エジプトやトルコの古陶への思い

季節のうつろい、天気の変化、そしてそこにある土。身近にある自然の中に溶け込むように暮らし、器を作る。けれども、「自然に憧れて」「自然であらねば」ではなく、あるがまま。淡々と器作りをする姿勢を見ていると、改めて人も自然界の一員であることを痛感します。



そして、あるがままでいるためには、身体能力やセンスに頼るだけでなく、お手本となる「もの」や「こと」とどう付き合うかも大切なのではないか、と、おふたりの尽きない好奇心を見ていると感じます。そのインプットは膨大、特に古代のデザインについての好奇心と行動力は驚くほど。今回も、東京でおもしろかったところは?とお聞きしたところ、「中近東文化センター」というなんともディープな答えが返ってきました。 「エジプトやトルコのものが好きで。特にファイアンスという青釉の焼き物に興味があり、なんとか再現できないかと実験を繰り返しました」(久美子さん)。エジプトのファイアンスのイメージそのままに、久美子さんらしい風合いに仕上がったのが、こちらのファイアンスシリーズです。



越前という脈々と伝統が息づく土地で、自然体で新たな可能性に挑戦するおふたり。作品が届くと、他の仕事の手を止めてつい箱を開いてしまう・・そんなわくわくが詰まった作品がまた届くのが楽しみです。
 

土本訓寛
1979年福井県高浜町生まれ。木工芸を家業にする家で育つ。岡山県吉備高原学園高等学校陶芸コースで2年間備前焼を学ぶ。1998年、福井県工業技術センター窯業指導所でロクロ研修を修了。2001年より越前町にて薪窯を使った制作を始める。主に焼き締め、三島手の器を制作。
 

土本久美子
1976年広島県生まれ。幼少より絵を描くことを好む。宝塚造形大学でビジュアルデザインを学ぶ。2000年、福井県工業技術センター窯業指導所修了。2004年より越前町にて薪窯での焼き物作りを始める。主に象嵌の技法による器を制作。


土本訓寛さん、久美子さんの作品一覧はこちら



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